南の風10m

自分が好きになった本を、誰かに伝えたい。そして、好きであった記録を残したい。そんな思いで、ブログを作ってみました。

周藤蓮『賭博師は祈らない』①~⑤、電撃文庫、KADOKAWA、2017-2019

作者さんの口ぶりをまねれば、本の感想には、「最初に読んだ時の感想」と、「読み込んだ時の感想」があると思います。
最初に読んだ感想は、食べ物に例えれば、口に入れた瞬間の強烈な印象と、口の中に微かに残った後味、といったところでしょうか。
それはきっと、その時にしか感じられえないもので、はかなくて、実はとっても大切なもんじゃないかと思います。

 

というわけで、このシリーズを一読した感想なのですが、どこまでも抜けていくような青空の爽やかさ、といった感じです。

 

物語、主人公は賭博師で、そのの主戦場は賭場で、そこで戦い、勝ち(時に負けますが)、生きています。
ときは18世紀、資本主義黎明期のイギリスはロンドンが舞台、階級社会の吹き溜まり(よりはちょっと上あたり?)の爛熟した雰囲気がむんむんに漂っています。
賭博も犯罪も今と比べれば身近な世界、己れの腕一本で渡れる世間は、足を踏み外せば落ちていくあるいは命を落としていく、張り詰めた緊張感があります。
主人公も、特に最初のころは、結構ニヒルで、賭博を生業とする者の、どこか醒めた心性がとても強かったですしね。
1巻で描かれたいかさま師の下りなどは、ダーティーで良かったです。

 

けれど、シリーズを通して描かれていくのは、主人公やヒロイン(彼にひょんなことから買われた奴隷の少女)が、そんな状況からずるずる滑り落ちていく姿ではなく、むしろ己れに課された枷を、取り巻く現実を見つめ、それに向き合い、未来を切り開いていく姿でした。
その過程で、主人公とヒロインは、お互いの惹かれあう心と、それぞれの意志と、主人と奴隷という、心ならずとも結んでしまった関係に向き合い、葛藤していく。
あー、もどかしくていじらしくて、とても胸きゅんでしたよ。
なんというか、主要な登場人物が、みんな、誠実で(堅物って意味じゃあないですよ)、すごく温かみがあるんですよね。
(これは勝手読みですが、作者さん、結構まじめな人なんじゃないかなあと。)
だから、彼らが踏み出し、今の自分を未来に賭けていく姿と、そのラストは、すごく爽やかなものだったのですよ。

 

いやあ、レーベルがレーベルですし、よもや『木枯し紋次郎』のように人間不信スパイラルで落ちてゆく小説ではないよなとはもちろん思っていましたが、久々に読んだライトノベル、読み終わってみればとても良い気分になれました。
あ、でも一つ要望を言わせてもらえれば



幸せな後日談とか、何かの形でよみたいなぁ。
すっきり終わったこのシリーズに蛇足なのかもしれませんが、あまーいのが好きな私としては。
だって望んだっていいじゃないですか、ライトで(軽妙で)、ライトな(明るい)、ライトノベルなんですから。
と、なんというか、公開ファンレターみたいになってしまいましたなぁ。
でも、それくらい好きでなければ、他の本を読む時間を削って文章書こうとは思えないからね、良いのです。

 

賭博師は祈らない (電撃文庫)

賭博師は祈らない (電撃文庫)