南の風10m

自分が好きになった本を、誰かに伝えたい。そして、好きであった記録を残したい。そんな思いで、ブログを作ってみました。

笹沢左保『木枯し紋次郎』

ことのついでというわけではないけれど、この物語についても、書きたい。
中村敦夫主演の時代劇が有名ですが、原作も正編続編合わせて(たしか)20巻前後にわたり書き続けられ、長く読まれてきた名作です。
この本の主人公である紋次郎、無宿、つまり故郷の戸籍から抜かれ、賭博を生業として諸国を旅する渡世人です。
根無し草で、正業もない。
しかも、厄介なことに、なまじっか腕っぷしが立つのと、それがために名前が売れてしまっている故、行く先行く先でトラブルに巻き込まれ(あるいは自分から飛び込み)の繰り返し。
情無しではないし、ふと人に関わり、そのたんびに、人に裏切られる。
なかには、彼のことを認め、その到来を待ち望む人もいるが、そこで尻を温めることもできない。
それは彼が渡世人の故でもあるし、彼がそこに居るがゆえに無用なトラブルが襲ってくる故でもある。
作中、紋次郎が人間不信を深めていくことはあれ、生き方や心情に温かみをもたらしていくような出来ごと、転換はない。
下り坂、あるいはどん底を行く人生。
しかも、続編に行くと、老いによる体の衰えという恐ろしい現実まで襲ってくる。
いわば、20余巻にわたりその無間地獄を見せられるわけで、むしょーにやりきれない。
とはいえ、それでも長い長い小説を飽きずに読ませてくれたのは、そのやるせなさが、どこかリアルで、見たくないようで見たい、そんな世の裏を覗き見るどきどき感があったからでしょうか。
ライトなのも好きですが、こういうのもまた、時折むしょうに読みたくなるんですよねえ。

 

基本的には短編で、面白いエピソードもいろいろあるのですが、まず一つ挙げるならば、ここはあえて長編を。

賭場というものがない奥州(この設定が時代考証的に正しいのかはわかりませんが)に漂着した紋次郎、渡世のしがらみを切り払いつつ南へ南へと向かう、スピード感のある1冊です。